吸血鬼を題材にした人気漫画『HELLSING』は、TVアニメ版とOVA版の二つのアニメ化作品があります。
しかし、両者は内容・雰囲気・演出が大きく異なり、ファンの間でも「どちらを先に観るべき?」と話題になることが多いです。
本記事では、両者の違いをわかりやすく解説しつつ、どちらも楽しむための視聴方法をご紹介します。
ヘルシングTVアニメ版の特徴とは
『HELLSING(ヘルシング)』は、吸血鬼を題材にしたダークな世界観で人気を集めた平野耕太の漫画を原作としたアニメ作品です。2001年にテレビ放送されたアニメ版は、当時の深夜枠らしい実験的でスタイリッシュな映像表現が特徴でした。
しかし、このテレビアニメ版は原作と大きく異なる展開を見せ、ファンの間では賛否両論を呼ぶ存在でもあります。ここでは、放送時期や制作背景から始め、具体的にどんな改変があったのか、そしてどのような結末を迎えたのかを詳しく解説していきます。
※詳しい作品情報は公式サイトをご確認ください。
放送時期と制作会社について
まず、テレビ版『HELLSING』が放送されたのは2001年10月18日からです。フジテレビの深夜枠を皮切りに、東海テレビや関西テレビ、さらにサンテレビといった独立UHF局でも順次放送されました。放送当時、アニメファンの間では「深夜にこんな大人向けの作品がやっている!」と話題になったのです。
制作を担当したのは、ゴンゾとディジメーションという二つの会社でした。当時は別会社でしたが、企画部門と制作部門という役割分担をしており、後に合併して「ゴンゾ」という名前に統一されます。ゴンゾといえば、90年代末から2000年代初頭にかけてCGや斬新なカメラワークを積極的に取り入れたスタジオとして有名でした。『BLUE SUBMARINE No.6』や『フルメタル・パニック!』などで培った映像表現が、『HELLSING』でも色濃く発揮されています。
スタッフ陣も実力派が揃っていました。総監督に飯田馬之介、監督に浦田保則、シリーズ構成は脚本家の小中千昭が担当しています。音楽は石井妥師が手掛け、オープニングテーマ「ロゴスなきワールド」や、エンディングテーマ「Shine」(MR.BIG)がアニメ全体のスタイリッシュさをさらに際立たせていました。
放送当時はDVD化も進められ、熱心なファンの支持を集めましたが、同時に「原作と全然違う!」という声も少なくなかったのです。
原作からの大幅な改変
テレビ版『HELLSING』最大の特徴は、原作漫画からの大幅な改変です。特に後半のエピソードはほとんどオリジナル展開で構成されており、原作ファンにとっては驚きの連続でした。
原作では物語の大きな柱となる「ミレニアム」と呼ばれるナチス残党組織との戦いが描かれますが、テレビ版ではこの要素が完全に削除されています。ナチスを題材にした描写が海外配信や放送において問題視される可能性があったため、制作側が意図的に排除したといわれています。
その結果、後半のストーリーは完全にオリジナルの展開となり、正体不明の怪人インコグニートがラスボスとして登場するなど、原作には存在しない新キャラクターが物語の中心に据えられました。
また、拘束制御術式(アーカードの能力を制御するシステム)も改変されており、原作では「零号」が最強の解放形態として描かれますが、テレビ版では「第1号」がそれに近い扱いになっています。インテグラが承認しなければ発動できない、というオリジナル設定も加えられ、ドラマ性を強めていました。
これらの改変によって、原作の壮大さとは異なる「テレビ版ならではの世界観」が築かれていたのです。
登場しないミレニアムと追加されたオリジナルキャラクター
先ほど触れたように、テレビ版ではミレニアム関連のキャラクターは一切登場しません。その代わりに、多数のオリジナルキャラクターが投入されました。
たとえば、アニメ版ラスボスとして登場したインコグニート。彼は紫色の肌に金色の入れ墨を持つ謎の吸血鬼で、アーカードとの壮絶な戦いを繰り広げます。原作には登場しない完全オリジナルの存在ですが、その強烈なビジュアルと圧倒的な戦闘力は、多くの視聴者の記憶に残りました。
また、ヘルシング機関側にもアニメオリジナルのキャラクターが追加されています。戦闘要員のピーター・ファーガソンやギャリス、そして吸血鬼の少女ヘレナなどがその例です。ヘレナは人形のような外見をした不気味なキャラクターで、アニメ独自のホラー感を際立たせていました。
このように、テレビ版は原作ファンからすれば「本筋から外れた作品」と見られることもありましたが、一方で「オリジナルキャラクターが好き」という視聴者も存在し、今でも一定の評価を受けています。
物語の結末と未解決の謎
テレビ版『HELLSING』の最も大きな特徴は、その結末です。
最終話では、アーカードとインコグニートが壮絶な死闘を繰り広げます。血煙が舞い、街が炎に包まれる中での戦いは、原作にはない独自のクライマックスとなりました。アーカードは勝利を収めるものの、その直後、インテグラが逮捕されてしまいます。
しかも、物語全体を通じて黒幕の正体は明かされず、字幕で「必死の調査にも拘らず秘密組織の謎は解けなかった」と説明されて物語は幕を閉じます。これは原作を知らない視聴者からすると非常に不完全燃焼な終わり方で、「これで終わり?」と戸惑った人も多かったのです。
こうしたラストの不透明さが、後に「原作準拠で作り直そう」という流れにつながり、2006年からOVA版『Hellsing Ultimate』の制作が始まりました。つまり、テレビ版の未消化な部分が、OVA版誕生の大きな要因となったといえるでしょう。
OVA版「Hellsing Ultimate」の特徴
テレビ版『HELLSING』が放送を終えて数年後、ファンの間では「原作のストーリーをしっかりと映像化してほしい」という声が高まりました。そうして誕生したのが、2006年からリリースされたOVA版『Hellsing Ultimate』です。
OVA版は「原作そのまま」を掲げ、原作漫画の完結までを映像化することを目標に制作されました。映像のクオリティはテレビ版を大きく超え、戦闘描写やキャラクターの表現も格段に向上しています。ここでは、OVA版の特徴を詳しく見ていきましょう。
原作準拠のストーリー展開
OVA版『Hellsing Ultimate』の最大の特徴は、原作に忠実なストーリー展開です。テレビ版では削除された「ミレニアム」の存在がしっかりと描かれ、物語は壮大な吸血鬼戦争へと突き進んでいきます。
例えば、第4巻ではロンドンに突入するナチス残党部隊「ミレニアム」の描写があり、空から無数の飛行船が降りてくるシーンは圧巻です。原作漫画で読んで衝撃を受けた場面を、アニメならではのスケール感で再現しているため、ファンにとっては夢がかなったような瞬間でした。
また、アンデルセン神父との死闘や、ウォルターの衝撃的な裏切りなど、原作の名シーンが次々と映像化されています。テレビ版ではカットされたキャラクターのセリフも復活しており、ファンが「これを待っていた!」と思わず唸る出来になっていました。
制作陣の変更とクオリティへのこだわり
OVA版の制作は当初サテライトが担当しましたが、途中からマッドハウスやグラフィニカなど、複数のスタジオに引き継がれています。監督もところともかずから田中洋之、さらに松村やすひろ、鈴木健一と変わっていきました。普通なら制作体制の変更は作品の質を不安定にする要因ですが、『Hellsing Ultimate』では逆に「もっと良いものを作る」という方向に働きました。
特に戦闘シーンの作画は徹底的に描き込まれています。アーカードが無数の亡者を召喚して敵を飲み込む「零号解放」のシーンでは、画面いっぱいに黒い影と無数の目がうごめき、まるで地獄の門が開いたかのような迫力があります。観る者を圧倒する力があり、テレビ版のスタイリッシュさとは別種の凄みを感じさせます。
さらに音響面でもクオリティが高く、銃撃戦の轟音や血の飛び散る音がリアルに再現され、緊張感を倍増させています。BGMも重厚で荘厳な曲が多く、アーカードの圧倒的な存在感を引き立てています。
発売の延期とブルーレイ修正版
『Hellsing Ultimate』は「とにかく品質を重視する」という姿勢から、発売延期が繰り返されました。第1巻もリテイクのために発売が遅れ、第2〜4巻、さらに第8巻も当初の予定日より延期されています。そのため、ファンの間では「また延期か」と半ば冗談交じりに語られることもありましたが、それだけ作品へのこだわりが強かった証拠でもあります。
また、Blu-ray版ではDVD版からの修正が加えられており、作画のリファインや演出の調整が行われています。特に第1巻は大幅な修正が行われ、OVA版の完成度をさらに高めました。
こうした背景から、OVA版は「時間がかかっても良いから最高の映像を作る」というスタッフの姿勢が伝わってくる作品となっています。
グロテスクな描写と戦闘シーンの迫力
OVA版のもうひとつの特徴は、その容赦ないグロテスク描写です。テレビ放送を前提としていないため、規制に縛られず表現できるのがOVAの強みでした。
例えば、第5巻で描かれるロンドンの市街戦では、街が炎に包まれ、市民が次々と虐殺される様子が赤裸々に描かれます。血の海の中で笑うミレニアムの兵士たち、そこに単身突入するインテグラ率いるヘルシング機関の兵士たち。地獄絵図のような戦場を、余すことなく映像化しているのです。
また、アーカードがインコグニートとは異なる「正規の強敵」と戦う場面も見どころです。零号解放による怪物的な攻撃や、アンデルセン神父の最期の突撃などは、グロテスクでありながらも荘厳さを感じさせる名場面です。
視聴者の中には「グロすぎて直視できない」という人もいましたが、それでも『HELLSING』という作品の本質を正面から描いたOVA版は、多くのファンに「これぞ本物」と納得させるものでした。
『ヘルシング』アニメのTV版とOVA版の主な違い
『HELLSING』には2001年に放送されたテレビ版と、2006年から発売されたOVA版『Hellsing Ultimate』があります。どちらも同じ原作をもとにしていますが、その仕上がりは大きく異なります。
テレビ版は放送の都合や海外配信を意識した結果、オリジナル要素が多く、原作から大きく改変されました。一方、OVA版は「原作そのまま」を掲げて、壮大な物語を最後まで描き切っています。
ここでは、両者の違いを「ストーリー改変」「キャラクター」「演出や作画」「ギャグシーン」という切り口から詳しく見ていきましょう。
ストーリー改変の有無
テレビ版とOVA版の最大の違いは、やはりストーリーそのものです。
テレビ版は全13話で放送されましたが、後半はほとんどがアニメオリジナル展開でした。原作の大きな柱である「ナチス残党組織・ミレニアム」との戦いは描かれず、その代わりに謎の吸血鬼・インコグニートがラスボスとして登場します。
例えば、最終回でアーカードとインコグニートが激突する場面。街が燃え上がる中で二人がぶつかり合うシーンは迫力がありましたが、そのままインテグラが逮捕され、黒幕も不明のまま物語が終わります。このため「消化不良のラスト」と評されることもありました。
一方OVA版は原作準拠で、ミレニアムがしっかり登場し、ロンドン大空襲やアンデルセン神父の最期といった原作屈指の名場面がすべて映像化されました。OVAの第4巻で飛行船団がロンドンに襲来するシーンは、原作ファンが夢見たシーンをそのまま動かしたような迫力で、テレビ版とは対照的な「完全版」的立ち位置を確立しています。
登場キャラクターの差異
キャラクター面でも両者は大きく異なります。
テレビ版ではナチス関連の要素が排除されたため、ミレニアムの少佐や大尉、シュレーディンガーといったキャラクターは登場しません。その代わりにオリジナルキャラが多数追加されました。
たとえば、紫色の肌と金色の入れ墨を持つインコグニートは、テレビ版最大のオリジナルキャラです。彼はアーカードをも凌ぐ力を持つ強敵として描かれ、最終決戦を盛り上げました。さらに、吸血鬼の少女ヘレナや戦闘員のピーター・ファーガソンなどもアニメ独自のキャラクターです。
対してOVA版は原作に忠実なので、ミレニアムのメンバーが勢揃いします。特に少佐の狂気じみた演説や、ウォルターの裏切りなどはファンに衝撃を与えました。アーカード、インテグラ、セラスといった主要キャラの心理描写も丁寧に描かれており、より原作に近いキャラクター像が堪能できます。
演出と作画クオリティの違い
演出面でもテレビ版とOVA版では明確な違いがあります。
テレビ版は2001年当時の技術で作られ、ゴンゾらしいスタイリッシュな映像表現が特徴でした。暗い画面や赤い光を多用し、ジャズやロック調の音楽を組み合わせることで、独特の雰囲気を作り出していました。ただし、制作スケジュールの影響か作画が安定しない回もあり、全体的には「深夜アニメらしい味わい」といった印象です。
一方OVA版は制作に時間をかけ、細部まで描き込まれたハイクオリティな作画が魅力です。アーカードが零号解放を行うシーンでは、画面いっぱいに亡者の群れが現れ、無数の目や手がうごめく恐怖感が徹底的に描かれました。また、戦闘シーンでは銃弾の発射音や血しぶきまでリアルに表現され、まるで映画のような完成度を誇ります。
さらにBlu-ray版では修正版が収録され、DVD版よりもさらに作画がブラッシュアップされました。この徹底したクオリティ管理こそが、OVA版が長く語り継がれる理由のひとつでしょう。
ギャグシーンの扱いの違い
もうひとつ面白い違いが「ギャグシーン」の扱いです。
テレビ版では本編にギャグはほとんど登場せず、代わりに次回予告がギャグテイストで作られていました。シリアスな物語のあとに突然軽いノリの掛け合いが入ることで、視聴者をクスッとさせる仕掛けになっていたのです。
対してOVA版では、原作にあるコミカルな要素もしっかり再現されています。セラスのドジっ子ぶりや、インテグラの部下たちのやり取りなど、重厚な物語の合間に少し笑えるシーンが挟まれることで、全体のバランスが良くなっています。特に「P.S.南無阿弥陀仏」といった独特なタイトルの曲に乗せた遊び心は、原作ファンなら思わずニヤリとするでしょう。
TV版とOVA版を観られる配信サイト比較
現在、『HELLSING』のTV版とOVA版はいずれも配信サービスで視聴可能です。料金や無料トライアルを比較すると以下の通りです。
配信サイト | 月額料金 | 無料トライアル | 視聴可能作品 |
---|---|---|---|
U-NEXT | 2,189円(税込) | 31日間 | TV版・OVA版どちらも |
dアニメストア | 550円(税込) | 31日間 | TV版・OVA版どちらも |
Hulu | 1,026円(税込) | 2週間 | OVA版のみ |
Amazonプライムビデオ | 600円(税込) | 30日間 | TV版レンタル/OVA版購入 |
Netflix | 790円〜(税込) | なし | 配信状況は変動 |
特にU-NEXTやdアニメストアはどちらのシリーズも揃っているので、まとめて視聴したい方におすすめです。
作者・平野耕太の評価と反応
『HELLSING』は原作漫画の圧倒的な世界観と個性的なキャラクターで人気を集めましたが、アニメ化にあたって作者・平野耕太がどのような反応を示したかもファンの間ではよく語られるテーマです。テレビ版とOVA版、それぞれに対する平野の評価は対照的であり、その違いは作品の方向性を理解するうえで欠かせません。
TV版への不満とクレーム
2001年に放送されたテレビ版『HELLSING』は、原作の序盤をもとにしつつも後半はオリジナル展開が中心でした。これは海外配信を意識し、ナチス関連の描写を避けたことが大きな理由です。その結果、原作で重要な「ミレニアム」の存在が削除され、物語はインコグニートというアニメオリジナルの敵との戦いで幕を閉じます。
この展開に対して平野は強い不満を示しました。自身のサイトの日記ではアニメやスタッフへの批判を書き連ね、さらには「ゴンゾ版ヘルシングのDVDをまんだらけに売った」と冗談めかしながらも本気の落胆を表明しました。また、単行本10巻巻末のオマケ漫画でもテレビ版アニメを茶化すような描写があり、ファンの間で「作者自身が黒歴史扱いしている」と噂されるほどです。
特に声優・野沢那智が演じたアンデルセン神父が序盤で退場してしまう点については「野沢那智の無駄遣い」とまで言い切り、その落胆ぶりが伝わってきます。原作者として「自分の作品が別物にされてしまった」という悔しさがあったのでしょう。
OVA版への期待とファンの支持
その後、2006年からリリースされたOVA版『Hellsing Ultimate』は、まさに原作者とファンが望んでいた形でのアニメ化でした。OVAは「原作そのまま」を掲げ、物語を最後まで映像化するという明確な方針のもと制作されました。
OVAの告知時、公式サイトには「見敵必殺 強力若本 Brand new Alexander Anderson」と大々的に掲げられ、アンデルセン神父の声優変更をアピールするほどの力の入れようでした。平野自身もこのOVA版に対しては好意的で、イベントやコメントでも「今度こそ本物」といった評価を示しています。
ファンの支持も圧倒的でした。第4巻で描かれるロンドン大空襲や、第9巻でのアンデルセン神父とアーカードの最終決戦など、原作の名場面がそのまま動くことに熱狂する声が相次ぎました。発売延期が繰り返されても「それだけクオリティにこだわっているのだ」と理解され、Blu-ray修正版の登場も歓迎されました。
テレビ版と違い、OVA版は「原作ファンへの最高のプレゼント」として受け止められたのです。
どちらを先に観るべきか?視聴のおすすめ順
では、これから『HELLSING』を観たい人は、テレビ版とOVA版のどちらから手をつけるべきなのでしょうか。両者の魅力を知ると、順番に迷う方も多いでしょう。ここではおすすめの視聴順について解説します。
TV版を観てからOVA版に進む理由
結論から言えば、まずテレビ版を観てからOVA版に進むのがおすすめです。
テレビ版は全13話とコンパクトで、雰囲気を味わうにはちょうど良い長さです。物語は改変されていますが、ゴンゾらしいスタイリッシュな映像や独特の音楽が魅力で、深夜アニメの時代感を楽しむことができます。セラスが輸血パックを前に戸惑いながらも血を飲むようになるシーンや、次回予告で繰り広げられるおどけた掛け合いなど、テレビ版にしかない味わいもあります。
そのうえでOVA版に進むと、同じキャラクターたちがより原作に近い形で動き出すので「なるほど、これが本来の姿か」と感慨深くなります。アーカードの零号解放や、インテグラが円卓会議を叱責する場面などは、テレビ版の印象を知ったあとに観ることでより強烈に心に残るでしょう。
グロテスク描写への注意点
ただし、OVA版はテレビ版に比べてはるかにグロテスクな描写が多く含まれます。
たとえば第5巻で描かれるロンドンの市街戦では、市民が虐殺され、血の海と化した街並みが克明に描かれます。アーカードの零号解放では、画面いっぱいに亡者の群れが現れ、見る者に強烈な不快感と畏怖を与えます。
このため「ホラー要素やスプラッタ描写が苦手」という人には、事前に心構えが必要です。逆に言えば、そうした表現を受け止められる人にとっては、OVA版こそが『HELLSING』の本当の世界を体感できる最高の入口になるでしょう。
両方楽しむためのポイント
『HELLSING』は、2001年のテレビ版と2006年から始まったOVA版『Hellsing Ultimate』という二つのアニメ化作品を持っています。同じ原作をもとにしているものの、その作り方や見せ方は大きく異なります。
だからこそ「どちらを観ればいいの?」と迷う人も多いのですが、実は両方を観ることでより深く『HELLSING』の魅力を楽しむことができます。ここでは、テレビ版ならではの魅力と、OVA版だからこそ味わえる迫力について解説していきましょう。
TV版ならではの魅力
テレビ版『HELLSING』の一番の魅力は、放送当時の空気感をまとったスタイリッシュな演出にあります。
2001年にフジテレビ系列で深夜アニメとして放送された本作は、まだ「深夜アニメ」という枠組みが広がり始めた頃の作品でした。ゴンゾ制作による独特の色彩とジャズやロック調のBGMが組み合わさり、退廃的でクールな雰囲気を演出しています。暗い街並みの中でアーカードが赤い瞳を光らせ、銃をぶっ放すシーンは、それだけで「大人向けアニメ」としての存在感を放っていました。
また、テレビ版にはオリジナルキャラクターが多数登場します。インコグニートや吸血鬼の少女ヘレナなど、原作にはない人物が物語を動かしていきました。特にインコグニートとの最終決戦は、原作を知らない視聴者には「これこそラスボス」という迫力があり、テレビ版ならではの結末として強い印象を残しています。
本編はシリアス一辺倒ですが、次回予告でキャラクターたちが軽妙に掛け合うギャグ演出も人気でした。真剣な物語のあとに突然ユーモラスなやり取りが入ることで、作品全体に独特のリズムが生まれていたのです。
OVA版だからこそ味わえる迫力
一方でOVA版『Hellsing Ultimate』は「原作そのまま」を合言葉に、徹底したクオリティで作られました。テレビ版に比べてはるかに時間と予算がかけられ、迫力ある戦闘シーンと緻密な作画が魅力です。
特に印象的なのは、第4巻で描かれるロンドン大空襲です。夜空に浮かぶ無数の飛行船から兵士たちが降下し、街全体を炎と血で覆い尽くす光景は、まさに原作の地獄絵図をそのまま再現しています。テレビ版では規制や放送枠の制約で描けなかった惨状を、容赦なく映像化しているのがOVA版の真骨頂です。
また、アーカードの「零号解放」やアンデルセン神父との最終決戦など、原作でも屈指の名場面が圧倒的な迫力で描かれています。血と影が画面を覆い尽くし、狂気と荘厳さが入り混じるシーンは、観る者に強烈な印象を与えます。
さらに、Blu-ray版では作画修正が加えられ、DVD版よりも完成度が高まりました。制作が遅れるほど品質にこだわった結果、10巻にわたるOVA版は「ファンが本当に望んでいたHELLSING」として高い評価を得たのです。
まとめ
『HELLSING』はテレビ版とOVA版で大きく表現が異なりますが、どちらにも観る価値があります。
TV版とOVA版、どちらも観る価値あり
テレビ版はオリジナル要素が多いものの、2000年代初頭の深夜アニメらしい実験的な空気感があり、音楽や演出も独自の魅力を放っています。インコグニートとの戦いなど、テレビ版でしか見られない展開は一度体験してみる価値があります。
一方でOVA版は、原作ファンが求めていた「完全版」と呼べる内容です。圧倒的なクオリティで再現された戦闘シーンや、グロテスクながらも美しい映像は、アニメ史に残る完成度を誇ります。
だからこそおすすめなのは、まずテレビ版で雰囲気を味わい、そのあとにOVA版で本格的な地獄絵図に浸るという順番です。両方を観ることで『HELLSING』という作品の奥深さを二重に堪能できるでしょう。
結論
『HELLSING』のテレビ版とOVA版は、表現の仕方も物語の展開もまったく違います。しかしその違いこそが魅力であり、両方を観ることで作品の幅広い解釈を体験できます。
「まずはテレビ版で軽く雰囲気を楽しみ、その後OVA版で圧倒的な迫力を味わう」——これが最も満足度の高い視聴方法でしょう。

アニメ・映画が大好きで毎日色んな作品を見ています。その中で自分が良い!と思った作品を多くの人に見てもらいたいです。そのために、その作品のどこが面白いのか、レビューや考察などの記事を書いています。
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